ハンドルネーム:皇居の風
私は、仕事終わりに、週に数回、気分転換を兼ねて皇居周辺を走ることにしている。その日は残業で遅くなり、夜のランニングとなった。夜のランニングは夜風が心地よく、仕事の疲れを癒すのにぴったりなので嫌いではない。また、夜の皇居周辺は、昼間に比べて人が少なく、静かな時間を楽しめる。しかし、その日は、ちょっとした事件が起こった。
いつものように走っていると、ふと前方が気になった。無意識に目をやると、1人のランナーがよろけ、その直後、後ろから来た自転車にぶつかった。事故が起こったのは、特に狭い場所ではなく、道幅は十分にあった。それでも、そのランナーがかなり大きくよろけたため、後ろから来た自転車は避けきれずに衝突してしまったようだ。
私はその場面を少し後ろから見ていたが、その場面だけを見ると、まるでそのランナーがわざと自転車にぶつかりにいったかのように見える。そして、ぶつかった後、そのランナーは自転車を睨みつけ、「ひき逃げだ!」と叫び始めたのだ。
自転車の男性は、そのランナーを一瞥すると、舌打ちをしながらそのまま去っていった。正直なところ、その男性の気持ちがわかる。状況が状況だけに、相手にするのも馬鹿らしいと感じたのだろう。しかし、そのランナーは納得できなかったようで、助けを求めるため、周囲を見渡していた。
「おいお前!あの自転車を追いかけろ!あいつはひき逃げだ!」と、そのランナーは私に向かって叫んだ。夜も遅く、周囲に人は私しかいなかったため、彼は私を唯一の頼みの綱としたようだ。しかし、私はその訴えを無視して、その場から離れることにした。正直、彼に関わりたくなかったのだ。
ランナーはさらに苛立ちを募らせ、「おい、お前だよ!聞こえているだろう!救急車を呼べ!警察を呼べ!」と騒ぎ立てていたが、その様子を見ても私は動じなかった。このランナーのことは、実は以前から見かけることがあり、その度にマナーの悪さが目立っていたからだ。他のランナーや歩行者に対して「邪魔だ、どけ!」と暴言を吐くことがしょっちゅうで、周囲からも疎まれている存在だった。
だからこそ、今回の出来事にも何か裏があるのではないかと感じた。私には、そのランナーが当たり屋のように見えてしまった。自転車の男性が故意に彼にぶつかったとは到底思えないし、むしろその男性が被害者なのではないかと思うほどだった。
そのランナーは足をひねったようで、自力で動くことができず、地面に座り込んでいた。しかし、その姿に対して同情の気持ちは一切湧かなかった。これまでの彼の行いを知っているからこそ、冷ややかな視線を送るだけだった。
その後、彼がどうなったのかは知らない。救急車を呼んだのか、誰かが助けに来たのか、あるいは自力で何とかしたのか。だが、私には関係のないことだ。ただ、これまで他人に迷惑をかけてきた彼が、今度は自分がその迷惑を被る立場になったということだけは確かだ。
皇居周辺でのランニングは、私にとって心地よい時間であり続けてほしい。だからこそ、こうしたマナーの悪いランナーには少しでも反省してほしいと思う。今回の出来事が、彼にとって少しでも教訓となれば良いのだが。
(掲載に当たっては、本人の許可を得ております。)