ハンドルネーム:りさりさ
休日の昼、私は池袋のサンシャイン通りを歩いていた。中学三年生の私にとって、池袋はちょっとした都会のお出かけスポットだ。今日は友達と買い物に来たけど、途中で別行動になり、私は一人で歩いていた。
そんな時、視界の端に妙な動きをする人が目に入った。
「ぶつかりおばさん」
池袋界隈で噂になっている中年女性らしい。細身の若い女性を狙ってぶつかってくるという、謎の存在だ。私が見たのもまさにその光景だった。
小汚い格好をした50代くらいの女が、謎のビニール袋を片手に持ち、もう片方の手をダラリと垂らしている。髪はぼさぼさで、ところどころ白髪が混じっていた。何より気になったのは、その異様な臭いだ。生ゴミみたいな、汗の染み込んだ服みたいな、何とも言えない悪臭が漂っていた。
おばさんは、口の中で何かをブツブツとつぶやきながら、わざと若い女性にぶつかっている。そしてぶつかるたびに、なぜか舌打ちをするのだ。
「チッ……」
いや、待って。どう見てもおばさんのほうが突っ込んでるのに、なぜ舌打ち?
私は呆れながら、おばさんの動きを観察した。
案の定、またやった。今度は細身のOL風の女性にぶつかり、女性が驚いて謝ると、おばさんは舌打ちしながら「ったく、邪魔なのよ」と文句を言いながら通り過ぎた。
ひどい。
私は「うわぁ……」と思いつつ、その場を離れようとした。
その時だった。
ぶつかりおばさん、ターゲットを間違える
おばさんの視線の先に、一人の外国人女性がいた。
20代前半くらいだろうか。金髪のスラっとした女性で、白いワンピースがよく似合っていた。観光客だろうか。少しキョロキョロしながら歩いている。
私は「まさか……」と思った。
だが、予想通り。
ぶつかりおばさんは、一直線に彼女へと向かっていった。
ズンッ!!!
ぶつかりおばさんの肩が、細い外国人女性に思い切りぶつかる。彼女はよろめき、一歩後ろへ下がった。
「Oh……!」
驚いたように声を上げる彼女。しかし、ここで謝るのが普通の日本人観光客とは違った。
彼女はじっと、おばさんを睨んだのだ。
その時、私はあることに気がついた。
この女性、ずっとスマホを片手に持っていたのだが、手を繋いでいた相手がいた。
すぐ隣にいたのは、ガッチリとした体格の外国人男性だった。
彼氏だろう。身長は190cmくらいありそうな大男。Tシャツからのぞく腕は筋肉質で、まるでアクション映画に出てくるボディガードみたいだった。
彼は、ぶつかりおばさんをじっと見つめていた。
すると、ぶつかりおばさんがまたやった。
「チッ……!」
なんと、外国人女性に向かって舌打ちしたのだ。
その瞬間だった。
バッッッ!!!
鋭い音が響いた。
外国人男性が、一瞬でおばさんの顔を殴ったのだ。
私は思わず息を飲んだ。
おばさんの体が宙に浮いたように見えた。数秒の間があり、そのまま地面に崩れ落ちた。
ドサッ……
ぶつかりおばさんは、仰向けに倒れたまま動かない。
通行人も、みんな驚いて足を止めた。しかし、誰も騒がない。むしろ、「ああ、やっとか……」というような空気が流れていた。
外国人男性は静かに拳を下ろし、彼女の肩を抱き寄せた。
彼女は「I'm fine」と笑顔を見せ、彼に軽くキスをした。
周囲の人々は、少し驚いた様子ではあったが、誰も警察を呼ぼうとはしなかった。
なぜなら——
「ぶつかりおばさんが迷惑な存在だと、みんな薄々気づいていた」からだ。
私は、倒れたまま動かないおばさんを見下ろし、心の中で小さくガッツポーズをした。
その後の話
その場を離れる時、私は一度だけ振り返った。
ぶつかりおばさんはまだ地面に倒れたままだった。誰も手を貸さない。
……まあ、当然だ。
あんな迷惑行為を続けていたのだから、こうなっても仕方ない。
私は何も言わず、スマホを取り出し、友達にLINEした。
「ねえ、今めっちゃヤバいもの見たんだけど」
帰りの電車で話すネタができたな、と思いながら、私は足早に池袋の街を後にした。