ハンドルネーム:雨男
これは、私が、会社に入社してまだ半年ほどしか経っていない時の話です。ようやく職場の雰囲気にも慣れ、毎日の業務にも少しずつ自信を持てるようになってきました。そんなある日の夕方、思いもよらない事件が起こりました。その日は朝から雨が降りそうな天気で、私はお気に入りの黒い傘を持って出社しました。オフィスに到着すると、いつものようにエントランスの傘立てに傘を差し込んで、仕事に取りかかりました。
夕方、仕事が終わり、帰宅の準備をしていた時です。傘立てに向かうと、私の傘が見当たりません。最初は見間違えかと思い、何度も傘立てを確認しましたが、やはり私の黒い傘はありませんでした。
困惑している私に、先輩の田中さんが声をかけてきました。「どうしたの?」と聞かれ、事情を話すと田中さんは眉をひそめました。「ああ、もしかしてまたあの人かな」と、意味深な言葉を漏らしたのです。
「またあの人?」と聞き返すと、田中さんは小声で説明してくれました。「実はね、昨年役職定年になった〇〇さんが、時々他人の傘を勝手に持ち去ることがあるんだよ。みんな困ってるけど、あまり大きな声では言えなくて…」
その時、私の心には怒りが芽生えました。私の傘を盗んだ犯人がいるなんて許せません。それに、そんな人が平然と会社に居ること自体が問題です。
翌日、私は決意しました。このままではいけないと。私は部長に相談することにしました。部長もこの件については聞いており、実際に何度か苦情が寄せられていることを認めました。そして、部長も、総務部が具体的な対策を取らないことに対して不満を感じている様子でした。
そこで部長は、私の提案を受け入れました。会社全体に「傘泥棒」への注意喚起メールを送ること、そして防犯カメラの設置を検討することにしたのです。
数日後、会社全体にメールが送られました。内容は、「最近、傘立てから傘が無くなるという報告が相次いでいます。自分の持ち物には十分注意を払い、また、誤って他人の傘を持ち帰らないように注意しましょう」というものでした。そして、防犯カメラの設置も決まり、翌週にはエントランスにカメラが設置されました。
それからしばらくして、再び雨の日が訪れました。私は、前に無くなったのと同じ種類の黒い傘を傘立てに差しました。仕事を終えた夕方、傘立てに向かうと、また、私の傘が無くなっているのです。
私は防犯カメラの映像を確認するために部長に報告しました。部長と一緒に映像を確認すると、やはりその人が映っていました。昨年役職定年となったその人が、私の傘を持ち去っている姿がはっきりと映っていたのです。
この映像を証拠として、部長はその人に事情を聞くことにしました。結果、その人は自分の行為を認め、謝罪しました。その後の彼の居心地は非常に悪くなりました。周囲の人々からは「傘泥棒」と呼ばれ、誰も彼を信用しなくなったのです。
私は、これで少しは気持ちが晴れました。傘泥棒が罰を受け、再発防止のための対策も講じられたからです。私の小さな行動が、会社全体の環境改善に繋がったことを誇りに思います。
(掲載に当たっては、本人の許可を得ております。)