ハンドルネーム: 靴が好き
いつものように仕事の外回りで電車を使っていたんだ。昼の3時頃。だけど、その日はいつもと違うことが起こるとは、思ってもみなかった。
電車は相変わらずの混みようで、俺はつり革を持って立っていた。靴には特別な愛着があるから、いつもピカピカに磨いてるんだ。そんな大切にしている靴を、電車が揺れた時、20代前半で大学は出ていなさそうな感じの女が踏んできた。その女はつり革も持たず、スマホをいじってばかり。
「すみません、足を踏まれてるんですけど…」と注意しても、その女は無視。その後もまた靴を踏んできたんだ。流石にきれた。もうこれは注意では済まされないと思い、駅員に言おうとその女を連れて行こうとしたら、電車がホームに着くや、走って逃げていった。
ちょうど降りる駅ではあったけれど、お客さんとの約束もあったから、追いかける気も失せて、まあいいかと思っていた矢先のことだった。少し先から音がしたから、駅の階段を見に行ったんだ。すると、なんと！ その女が階段の下でうずくまっているのが見えた。どうやら階段から転げ落ちたらしい。その階段は普段からあまり人が使わないから、誰も巻き込まれていなかったのが不幸中の幸いだった。
俺は一瞬、助けようとも思ったが、すぐに考えを改めた。注意しても聞かない、そして逃げるような行動を取る女に対して、同情する気持ちは湧かなかった。だれかが見つけてくれるだろうし、このまま放っておくのが丁度いいと思ったんだ。
そのまま駅員に連れて行こうとしたことはすっかり忘れて、俺はその場を離れた。靴が痛んだのが悔しいが、どこかでその女が自業自得の結末を迎えたという事実に、少しの満足感を感じてしまった。
その後、何日か経ったある日、俺は偶然その事件が話題になっているのを耳にした。どうやら、その女は階段から転がり落ちた後、少しの間誰にも気づかれずにいたらしい。結局、駅の清掃員が見つけて、救急車が呼ばれたとのこと。
話を聞いて、俺は心のどこかでほっとした。人間、何が起こるか分からないし、もし本当に重大なことになっていたら、それはそれで気が重かったろう。でも、その女が大怪我をしたわけでもなく、必要な救助は受けられたと知り、安心したんだ。
俺がその女に対して何も手を差し伸べなかったのは、彼女が俺や他の乗客に対して見せた無礼な態度が原因だ。でも、誰かが気付いてくれて本当によかった。誰もがその場で正しい判断ができるわけではないからね。
